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【米国特許】機械/電気分野の方法クレーム ~日米の違いと日本明細書/図面に記載しておくべきこと~

2025.04.28
 

その① 米国方法クレームの基本的な考え方と日本との違い

今回から数回にわたって、機械/電気分野の米国特許出願における方法クレームについて、日米の違いやベースとなる日本出願の明細書/図面に記載しておくべきことを中心に解説したいと思います。

機械/電気分野における従来の米国出願では、方法クレームは装置クレームほど重要視されてきませんでした。しかし、ソフトウェア関連発明の出願が増加する中で方法クレームの価値が高まり、今後は、AI関連発明の出願の増加に伴って、方法クレームの価値が益々高まることが予想されます。

日本出願における方法クレームと米国特許出願における方法クレームとの間にはいくつかの違いがあり、日本出願の方法クレームのまま米国出願を行った場合、日本で許可となっても米国ではなかなか許可にならない可能性があります。
つまり、米国出願においては、「米国用の方法クレーム」を用意する必要があり、そのための「ネタ」を基礎となる日本出願明細書/図面に仕込んでおく必要があります。
「ネタを仕込んでおく」と言っても、米国における方法クレームに対する考え方や日本との違いがわからなければ、どんなネタを仕込めばよいのかわかりませんよね?

そこで、米国の方法クレームの考え方を解説しつつ、米国用の方法クレームを作成するために、ベースとなる日本出願の明細書/図面に記載しておくべきことを考えていきたいと思います。

※本記事は、米国出願を念頭においた日本出願の方法クレームの作成を提案するものではありません
※クレームは、出願国ごとに適切なものを作成すべきであり、明細書/図面とは分けて考えるべきであることをご理解ください。

ソフトウェア関連発明について考える前に、比較的馴染みがあると思われる製造方法クレームで、米国における方法クレームの考え方や日本との違いを見ていきましょう。

■日米と米国の製造方法クレームの大まかな違い

<日本>
日本出願の製造方法クレームには以下のような傾向が見られます。

 ・その製造方法によって製造される装置について、プリアンブルで説明。
  どういうものを作るかについて、事前にイメージを読者と共有?
 ・製造される装置、製造に使用する装置、製造工程など、クレームの記載内容を加味。
  クレーム全体でクレーム発明を理解する。

<米国>
米国出願の製造方法クレームには以下のような傾向が見られます。

 ・プリアンブルを含めクレーム全体で装置の構造的特徴の説明は極力しない。
  「何を作るかはできてからのお楽しみ」という感じで、ボディに製造手順を記載する。
 ・方法クレームの構成要素(技術的特徴)は「動作」であり、「何をしているか」でクレーム発明を理解する。

■米国の製造方法クレームで構造的特徴を極力説明しない理由

 ・プリアンブルは「自認の先行技術」と捉えられるため、プリアンブルに記載された装置の構造的特徴は出願人が認めた先行技術であり、書き過ぎると、当業者であれば製造方法も簡単に思いつくと判断される可能性が高くなるため。

 ・そもそも方法クレームは、構造的特徴を特定したくない/できない場合に使うことが多く、構造的特徴を記載しては、方法クレームにする意味がないため。

■具体例

ここからは、架空の特許出願を例に、日米の違いを具体的に見ていきましょう。

下記の製造方法に関する日本出願のクレームと同等のクレームで米国出願を行ったと仮定します。

<複合構造体の製造方法>
複合構造体:金属部材+プラスチック部材(繊維部材+熱硬化性接着剤)

(1)課題

従来の複合構造体の製造において、以下の工程を別々に行うと、工程数が多くなり、生産効率が低下する。

 ・プラスチック部材の形成工程(繊維部材に樹脂を浸透させる) 
 ・プラスチック部材の成形工程(形成されたプラスチック部材を特定の形状に成形する)
 ・プラスチック部材と金属部材の接着工程

プラスチック部材の成形工程において、プラスチック部材に圧力をかけることでプラスチック部材から樹脂が溢れ出るようにし、溢れ出た樹脂によって、プラスチック部材と金属部材を接着すれば工程数の削減はできるが、接着剤を用いて両者を接着する場合と比べて、接合強度が低い。

(2)目的

プラスチック部材と金属部材の接合強度を低下させることなく、生産効率を向上させることが可能な複合構造体の製造方法を提供する。

(3)米国出願時の独立クレーム(日本出願の独立クレームと同等)

金属部材とプラスチック部材との複合構造体の製造方法であって、
金型内に、前記金属部材と繊維部材と熱硬化性接着剤とを前記金型の型締め方向に積層させる積層工程と、
前記金型を型締めすることで前記熱硬化性接着剤を前記繊維部材内に浸透させてプラスチック部材を成形するとともに、前記プラスチック部材を前記金型によって規定される形状に成形するプラスチック部材成形工程と、
前記金型を加熱して前記金型内で前記熱硬化性接着剤を硬化させることで、成形後の前記プラスチック部材を硬化させるとともに、前記プラスチック部材と前記金属部材とを接着する接着工程と、
を備える複合構造体の製造方法。

(4)上記クレームの米国における方法クレームとしての問題点

上記(3)のクレームの記載方法は、日本では特に問題になることはないと思いますが、米国の方法クレームとしては、いくつかの問題点があります。そのため、米国出願段階で米国用の方法クレームに補正しておくとよいです。
そのためには、米国出願明細書/図面にその補正の根拠となる記載が必要であり、優先権を主張するためには、ベースとなる日本出願明細書/図面にその補正の根拠となる記載が含まれている必要があります。
「補正の根拠となる記載」とは何かを知るために、日本出願のクレームの何が米国で問題になるかを知ることが非常に重要となります。

  • 構成要素が「工程」で記載されている
    米国の方法クレームの構成要素は、通常「動作」で記載します(英語では動詞のing形で始まるリスト形式)。日本クレームのように「工程」で記載すると、「結果」や「目的」を表しているような印象を受けてしまう可能性があります。
    例えば、「積層工程」は、「a laminating process for laminating~(~を積層するための積層工程)」と英訳される可能性が高く、「目的」を表しているような記載になってしまいます。
    また、上記のように英訳された場合、step-plus-functionクレームと解釈される可能性もあります。step-plus-functionクレームと認定された場合、装置クレームのmeans-plus-functionクレーム同様、方法を実施するための手段が明細書の記載およびその均等物に限定されてしまいます。

  • 1つの構成要素に複数の動作が記載されている
    例えば、「プラスチック部材成形工程」には、「型締め」、「浸透」、「形成」、「成形」という4つの動作が含まれていますが、米国の方法クレームでは、「1構成要素1動作」が原則です。
    装置クレームでは、「部材Aと、部材Bと、部材Cと、を備える装置」というように、1つの部材を1つの構成要素とし、「部材Aおよび部材B」を1つの構成要素にはしないのと同様に、方法クレームでも1つの動作を1つの構成要素とします。
    こうすることによって、「動作」をより明確にすることができるとともに、「結果」や「目的」で記載することのないようにすることができます。

  • どの動作が構成要素であるのかが不明瞭
    「積層工程」には、「積層させる」という「目的」が記載されており、「動作」になっていません。
    「プラスチック部材成形工程」の「型締めすることで~浸透させ」の「型締めすること」は「手段」であり、「浸透」と「(プラスチック部材を)形成」は、型締めしたことによる「結果」であるため、構成要素である「動作」が明確に記載されているとは言えません。
    また、「形状に成形する」は、以下の2通りの解釈が成り立ちます。
    ・型締めしたことによる「結果」
    ・特定の形状に成形するという「目的」
    上記いずれの場合も、方法クレームの構成要素の記載としては不明瞭であると言えます。
    「接着工程」にも「プラスチック部材成形工程」と同様の問題があります。

  • 英語の問題
    「型締め方向に積層させる」について、英語では「型締め」するためには少なくとも2つの金型が必要です。例えば、「第1金型」と「第2金型」を記載する必要があります。
    また、英語(特に米国)では「金型」という文言自体にあまり意味はなく、「部材」とするのとほとんど違いはありません。つまり、「金型」という文言だけで、日本人がこの文言から連想する「金型」を特定することはできません。
    したがって、日本人が連想する「金型」を使用した方法である場合(「金型」を特定したい場合)、それとわかる最低限の構造的特徴を記載する必要があります。
    例えば、「凹部を有する第1金型と、前記凹部の形状に対応する形状を有する凸部を有する第2金型」のように記載します。

◆ATTENTION!◆

繰り返しになりますが、上記は、米国における方法クレームとしての問題点であって、日本における方法クレームの問題点ではありません。日本出願時に上記の点に気を付けてクレームを作成する必要はありません。
本記事の目的は、あくまでも、日本と米国における方法クレームの違いを知ることであり、日本出願時の明細書/図面にどのようなことを記載しておいたらよいかを考えるところにあります。

■今回のまとめ
どのような「ネタ」が必要なのかを理解するために、米国方法クレームの以下の特徴を覚えておきましょう!

 ・プリアンブルは「自認の先行技術」
 ・構成要素(技術的特徴)は「動作」(動詞のing形で始まるリスト)
 ・1構成要素1動作

また、方法クレームに限らず、米国のクレームにおいては、一部の用語を除き、文言自体が意味を持つことはないと思っておきましょう!

次回は、米国の製造方法クレームをどのように記載すればよいかについて解説したいと思います。

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